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川崎の工場地帯出身のラッパーとHiGH AND LOWと内田彩さんが好きです

【逃げ恥】新垣結衣が手に入れたものは星野源だけじゃない

はじめに

ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ 2016年10月より放送されたこの作品、社会現象と呼ばれるまでの"逃げ恥旋風"を巻き起こし、先日遂に感動のフィナーレを迎えました。主題歌である星野源の「恋」をバックに出演陣が踊る"恋ダンス"がブームの火付け役となり、Youtubeでの動画再生回数は合計7500万回を超え*1、世代を超えて"逃げ恥ブーム"がメディアを席捲しました。普段はドラマを観ない私も、ツイッターにて新垣結衣がマジで可愛い」しか言えなくなってしまった多くの友人の姿を見て、「そんなに言うなら…」と視聴を始めたわけなのですが、いつのまにやら毎週火曜日夜10時が楽しみになっていました。新垣結衣ちゃん、サイコー!「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」の頃から大好き!!

さて、"物語"と"変化"という要素は切っても切り離せません。物語を通してその世界の住人は成長し、変化がなければ物語は成立しません。ドラえもんが道具を出すのと同じように、物語におけるキャラクターの成長に伴う変化というものは、いわばあたりまえの現象なのです。これはドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも同じことが言えます。このドラマは当初、"星野源"演じる"津崎平匡"のことを、"新垣結衣"演じる"森山みくり"が彼の自尊心の低さにアプローチを施し、彼を勇気付けるというものでした。しかし、最終話で2人の関係はどのようになったでしょうか?全11話の物語を通して、森山みくりが手にしたものとは一体何だったのでしょうか?拙筆ながらもお付き合い願えると幸いです。

 

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目次 

 

3行でわかる「逃げるは恥だが役に立つ

長い記事となりますので、内容を3行でまとめます。

⑴ ぶっちゃけ"ムズキュン"とかはそこまで肝心じゃない

⑵ 物語には一貫して、みくりが他者からの承認を手に入れようとした姿が描かれている

新垣結衣はかわいい

  

【参考】5分でわかってほしい「逃げるは恥だが役に立つ

「そんなドラマ知らねぇ」という方のために、簡単に内容をまとめておきます。知ってるって方は次の項へ。

「結婚とは?」=「恋愛+家事」である?夫=雇用主、妻=従業員という不思議な関係!結婚という「仕事」…あなたはアリですか?新垣結衣が、契約結婚という訳アリ新妻に挑戦!

職ナシ彼氏ナシの主人公・森山みくりが、恋愛経験の無い独身サラリーマン・津崎平匡と、あることがきっかけで「仕事としての結婚」をすることに。夫=雇用主、妻=従業員の雇用関係で恋愛感情を持たないはずが、同じ屋根の下で暮らすうち、徐々にお互いを意識し出す妄想女子とウブ男…はたして契約結婚の行方は!?

はじめに|TBSテレビ:火曜ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』

契約結婚とは?

"契約結婚"とは"事実婚"とも呼ばれる、当事者間の主体的・意図的な選択によって婚姻届を提出しないまま共同生活を営む行為や形態を指す言葉である。

今回の記事で言及する6人の登場人物を紹介します。主にみくりと平匡のキャラクターだけ理解していただければ問題なくご覧いただけます。

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森山みくり : 新垣結衣演じる26歳女性。

就職活動で内定がもらえず、文系大学院に進み臨床心理士の資格を取得するが、全滅。どうにか派遣社員になったのはいいが、すぐに派遣切りにあい現在は求職中。
大学時代の彼氏に 「小賢しい」 と言われたことがトラウマで、恋愛にも結婚にも踏み出せずにいる。

平匡と"契約結婚"を結び、彼の家で"専業主婦"として給料を受け取り働いている。

物語が進むうちに、平匡に好意を寄せる。

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津崎平匡 : 星野源演じる36歳男性。

IT 社に勤める地味なサラリーマン。
性格は超真面目。35年間、彼女がいたことがない 「プロの独身」 であると自負している。

自尊感情がが低い。人付き合いが得意でなく、一人でいるのが気楽な性格だが、みくりの"雇用主"として、彼女の距離感をわきまえた態度と仕事ぶりを認めている。

物語が進むうちに、みくりに好意を寄せる。 

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風見涼太 : 大谷亮平演じる32歳男性。

津崎の会社の後輩でスーパーハイスペックイケメン。

「結婚」 に対しては、役に立つ相手であればしてもいいと思っているが、自分の時間を大切にするタイプのため否定的である。

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土屋百合 : 石田ゆり子演じる49歳女性。

みくりの伯母で化粧品会社に勤めるバリバリのキャリアウーマンだが、生涯独身で生涯男性経験はナシ。

「結婚はそのうち」 と思っていたが、そのまま男性経験なしで50歳を迎えようとしていた。

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田中安恵 : 真野恵里菜演じるシングルマザー。みくりの親友。愛称はやっさん。後述の青空市の執り仕切りを彼女に依頼する。

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日野秀司 : 藤井隆演じる平匡の同僚。若干トラブルメイカー気味。後述のトグロターボを渡した男。

ふとしたことから平匡と"契約結婚"を結び、彼の家で"専業主婦"として給料を受け取り家事をすることになったみくり。共に生活し、様々な障害を乗り越えていくうちに、二人は互いに好意を寄せるようになった…というお話です。

下記であらすじについては適当な場面で綴っていきますが、詳しくはドラマを観てください。 

 

逃げるは恥だが役に立つ」のテーマ

このドラマのテーマとはどのようなものでしょうか?"社会派番組""ムズキュン"など様々なキーワードがメディアで取り上げられていますが、私がこの作品の核として着目するのは"承認欲求"というものです。この作品において登場するキャラクターたちは、皆それぞれが問題を抱えており、それを解決しようとトライアンドエラーを繰り返します。そうです、今回の記事のテーマは"承認欲求"です。これがなければこの作品における成長は存在せず、物語として成立していないと言っても過言ではないでしょう。

 

【参考】マズローの欲求階層説

心理学の分野の話になりますが、文系大学生が心理学の入門として学ぶ、マズローの欲求階層説のお話をします。知ってるって方は次の項へ。

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人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低階層の欲求が充たされると、より高次の階層の欲求を欲するというもの。

第一階層の「生理的欲求」は、生きていくための基本的・本能的な欲求(食べたい、飲みたい、寝たいなど)。この欲求がある程度充たされると次の階層「安全欲求」を求めます。

第二階層の「安全欲求」には、危機を回避したい、安全・安心な暮らしがしたい(雨風をしのぐ家・健康など)という欲求が含まれます。

この「安全欲求」が充たされると、次の階層である「社会的欲求(帰属欲求)」(集団に属したり、仲間が欲しくなったり)を求めるようにます。この欲求が満たされない時、人は孤独感や社会的不安を感じやすくなります。

ここまでの欲求は、外的に充たされたいという思いから出てくる欲求といわれます。

そして、次に芽生える欲求は、第四階層である「尊厳欲求(承認欲求)」(他者から認められたい、尊敬されたい)です。ここからは外的なモノではなく、内的な心を充たしたいという欲求に変わります。

「尊厳欲求」が充されると、最後に自己実現欲求」(自分の能力を引き出し創造的活動がしたいなど)が生まれます。

マズローの欲求5段階説 |モチベーション向上の法則

簡潔に説明すれば、人間の欲望というものは5つに分類することが可能であり、それはピラミッド状に下から上へと満たされていくものであるということです。現代の日本社会、また「逃げるは恥だが役に立つ」の世界観においてはもちろんですが、基本的に下から3つの下層欲求は既に満たされていることでしょう。日本に住んでいれば、衣食住は基本的に保障されており、仕事に就くことも困難ではありません。「逃げるは恥だが役に立つ」においても上記の4名はこの3つの課題はクリアしています。*2

さて、問題は次の"承認欲求"です。Wikipediaを見ますと、このような定義がなされております。

承認欲求

承認欲求とは、他人から認められたいとする感情の総称である。

人間は他者を認識する能力を身につけ、社会生活を営んでいくうちに、「誰かから認められたい」という感情を抱くようになる場合が多い。この感情の総称を承認欲求という。

また、この承認欲求の内容は主に2つのタイプに分類されます。

承認欲求は承認されたい対象によって、おおむね2つのタイプに大別される。ひとつは他人から認められたいという欲求であり、もうひとつは自分の存在が理想とする自己像と重なるか、あるいはもっと単純に今の自分に満足しているか、という基準で自分自身を判断することである。前者を他者承認と呼び、後者を自己承認と呼ぶ。

それでは、この承認欲求は「逃げるは恥だが役に立つ」における森山みくりの物語とどのように関わってくるのでしょうか。実際に考えていきましょう。

 

第1話から見る、みくりが求めていたもの。

このドラマはドキュメンタリー番組「情熱大陸」のパロディからスタートしました。大学時代に就職活動に失敗し、そのまま大学院に進み臨床心理士の資格を取得するも、またしても就職活動に失敗した森山みくり。派遣社員としてなんとか社会に適合しようとする彼女の懸命な姿が映し出されます。上司に小言や業務規定外の仕事を押し付けられても"それを含めてのお給料だ"と自身を説得するようにカメラに語る彼女。派遣社員として働く想いを力強くも脆い言葉で紡いでいく彼女の台詞で、このドラマで何を映し出したいのかを象徴する、特に印象深いものがここにはありました。 

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そりゃ不満もあります。「もっと早く言ってくれれば…」とか「合理性に欠けることばっかり…」とか。

でも、そういう不満も含めてのお給料だと思えば頑張れるし、会社に…社会に必要とされてるんだっていう感覚が日々の励みになります。今は毎日が充実してます。

"社会に必要とされる感覚" これは彼女が自身の価値を社会という極めて漠然とした概念の中に見出していることが読み取れる言葉です。働く人ひとりひとりが歯車となり、この国の経済は回っています。ステージで輝く人も居れば、そのステージを作る人がいて、そのステージを支えているネジがあり、そのネジを作る人がいる…このようにして社会は回っています。しかしここで、彼女は自身の不満を押し殺し、社会からの"承認"を得ることに価値を見出だしていました。

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また、彼女は叔母の百合と仕事について話すシーンがありました。独身で男性経験が皆無ながらも、化粧品会社の広報部で課長代理のキャリアウーマンとしてバリバリ働いている彼女。そんな彼女が人生における幸せを考えるシーンで、みくりはこのような発言をしました。

みくり: 私、百合ちゃん羨ましいもん。

好きな仕事して、プロジェクト任されて、部下の教育まで任されて。

百合: それは嬉しくな~い。

みくり: え?だってそれって百合ちゃんが会社に必要とされてるってことじゃん。ありがたい話だよ~。

みくりはあくまでも"社会"の歯車というものにこだわっています。何が彼女にこのような発言をさせるのでしょうか。 その理由は彼女の過去にありました。

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わたし、就職活動で全敗だったんです。大学卒業の時も、大学院出てからもどっちも。

派遣先でも、私ともう一人どっちかっていう局面で、やっぱり選ばれなくて

誰にも認めてもらえなくても、自分は自分として頑張れば良いってわかっちゃいるんですけど。

だから、津崎さんが「家事をお願いして良かった」って言ってくれた時、「これだ!」って思っちゃって、嬉しくなっちゃって

 "誰にも認めてもらえなかった"こと、"選んでもらえなかった"ことが彼女が社会に対して承認を求める理由でした。このシーンは、家事代行の仕事ぶりを平匡から認められ、派遣切りに遭い無職であったこともあってか、思わず「契約結婚をして主婦として雇ってほしい」と口走った彼女に対し、平匡がその理由を尋ねたところです。もちろん新たな就職先を探さなければいけないという問題もあったでしょう。しかしこれは、何よりも彼女が仕事ぶりを含め"自分のことを認めてほしい"と訴えかけた象徴的な言葉でした。

つまり、彼女は承認欲求、そのなかでも"他者承認"に対する不満足を抱えていたのです。

この後、みくりは平匡と恋人となり、彼の自尊心の低さをなんとかしようと奮闘しますが、それは最もたる問題ではありません。この物語で一番取り扱われるべき対象は、"平匡"ではなく"みくり"の方なのです。そのため、後述する最終回のシーンがあのような形で迎えられたのは必然だと言えます。

 

平匡との生活で見えた、みくりの過去。

物語は進み、第4話では風見に彼らが契約結婚をしている"仮の夫婦"だとバレてしまいます。彼らの契約結婚の実態に興味を持ち、「そんなに良いなら僕にもみくりさんを貸してください」と彼らにみくりを"シェア"することを要求します。2人はそれに応じ、平匡と風見の2人の部屋を行き来する生活が始まりました。

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そんな折、風見のことを楽しそうに話すみくりに対し、平匡が嫉妬の心を表します。自分とは違う世界を生きるハイスペックイケメンの風見、彼のことを楽しそうに語るみくり。彼の自尊感情は急激に痛めつけられます。それを感じとったみくり、平匡に「高校は男子校でしたか?」「合コンに参加したことは?」などと彼の過去を探り始めます。それに気づいた平匡。「詮索するのも分析するのもやめてください」と咎められてしまいます。

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ここで、みくりが経験した過去の手痛い失恋の回想へと入ります。当時、大学2年だった彼女には、1歳年上の彼氏"シンジくん"がおり、彼の就職活動になんとか協力しようと、自身の専攻していた心理学の分野を通し彼女は多くのアドバイスをしました。

「次の面接は初頭効果を意識したらどうだろう」

「シンジくんって、原因を自分に求めすぎる傾向があるじゃない?自己卑下的帰属バイアスを外すことを意識した方がいいと思う。」

彼女の言葉に追い詰められた彼は、このような言葉を残して別れを告げました。

人のこと勝手に分析して批評して、なんでそんなに偉そうなんだよ。何様なんだよ?

お前小賢しいんだよ。

「お前小賢しいんだよ」というこの言葉。物語のクライマックスに至るまで、ことあるごとに彼女の胸を駆け巡り、キリキリと痛めつけます。みくりは"小賢しい"という言葉に苦しみ続けるのです。

 

平匡のことを好きになったみくり。

第6話のお話です。ここまでで、平匡はみくりの押しに負け、毎週火曜日をハグの日にすることと決めました。そんな彼らのもとに舞い込んできた次なるイベントは"新婚旅行"です。

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百合が当てた福引の旅行券で半ば強制的に新婚旅行へ行くことになった平匡とみくり。"プロの独身"こと平匡は、同僚の日野に「新婚旅行に行くが、{女性と二人で過ごすなんて) 夜が (眠れるか) 心配だ」と告げます。この言葉を勘違いしたのがこの日野という男。彼に「夜が心配ならこれを使え」とマムシエキス入りのドリンク"トグロターボ"を渡します。何故マムシエキスが入っているのかは察してください。

そうとは知らず旅館に到着してそれを開封し、冷や汗を流す平匡。何としてもこの激ヤバアイテムをみくりの目に触れさせてはならないと静かに奮闘します。それだけでなく、様々なアクシデントに見舞われ、その夜、二人はダブルベッドで一緒に眠るのを余儀なくされていました。そんな二重苦のなか、みくりが平匡の鞄から例のドリンクを見つけてしまいます。みくりは「今夜訪れる"何か"があるのでは…」と考えながら、心のなかでこう語りました。

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いいんだろうか。平匡さんの心のテリトリーに、入らせてもらえるんだろうか。

そんな2人。結局何もないまま朝を迎えてしまいます。帰りの電車のシーン、みくりはふと、平匡に対して自分が何を求めているのかを考えました。

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もしも今、「手を繋ぎましょう」って言ったら

困った顔をして、仕方なく手を出して。

でも欲しいのは、"仕方なく"なんかじゃなくて

私は、平匡さんに何を求めてるんだろう

数々の苦難を共に乗り越え、契約結婚をした、後述する"火曜日にハグをする関係"だけの従業員と雇用主。彼女は彼の優しい言葉と振る舞いに、気づけば心を委ねるようになりました。そんなことも知らない平匡に対して、ただただ自分だけが心揺さぶられるみくり。「もう疲れた。もう何も求めない」と心に決めたところ、まさかのラストシーンで平匡にキスをされて終わります。

当初は平匡の自尊感情を高めようと始まった火曜日のハグ。気づけば、彼との疑似恋愛に積極的であったみくりの方が疲弊し、虚無感を抱くようになってしまいました。彼女は何故この場面において、何故ここまで悲しんでいるのでしょうか。彼女は彼に対し、何を求めているのでしょうか。"愛情のフィードバック"など、様々な答えがあるのかもしれませんが、私はこれを"心の拠り所"だと考えています。

彼女は先程、「心のテリトリーに入らせてもらえるんだろうか」と、このような言い方で彼との距離感を表現しました。重要なのは"入れる(はいれる)"ではなく、"入らせてもらえる"という言い回しです。彼女が能動的に彼のテリトリーに入っていくのではなく、受動的に彼の採択を受け入れ、それが"認め"られた場合にのみ入っていくという表現がなされています。この場面における彼女は、主体ではなくあくまでも客体であり、彼から"承認"を受けることができるのかと悩む姿が描かれています。言うなれば、この時の彼女の心情は自分自身にあるのではなく、平匡の心のなかにそれを寄り掛けているのです。そのため、私は彼女の求めていたものが"心の拠り所"であると考えています。

 

みくりが26年目の人生で手に入れたもの。

物語は進み最終話へ。この間に、当初は"プロの独身"を自称し、みくりに対して壁を作ってきた平匡が彼女に心を開ききります。以前のような根暗っぽい表情もどこへ行ったのか、非常にポジティブな言動が目立つようになります。一方のみくり、以前は平匡の自尊感情を高めようとしていた努力の結果が実ってか、彼のことを溺愛し始めます。

その裏で、平匡の勤める会社の経営難により、彼のリストラの判断が下されました。「リストラされてしまっては、みくりに給与を払うことができず、彼女をそばに置くことができなくなる」と考えた平匡。もちろん彼女のことは好きでいるものの、そして好きでいるからこそ、給与を支払わなくとも彼女と一緒に暮らせる方法を考えます。そして食事の席で、リストラのことには触れず、彼女に給与を払わずとも一緒に生活できる選択肢、つまり"籍を入れる"ために"プロポーズ"をしました。

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しかし、ここで彼は過ちを犯してしまいました。彼は彼女に対して「愛してる」といった言葉を告げず、ただ単に「今後結婚したらこんなにお金が貯まるんですよ」とデータを見せ、「こんなに価値があるんだから結婚しましょう」と告げてしまったのです。皮肉にも、この"データを見せて"結婚を申し込むというのは、彼らが契約結婚を結ぶ際に交わされたものと同じでした。それに対して「私と結婚すればお金を払わず私をこき使えるからなのか」と反論するみくり。プロポーズを断ります。

そんな彼女、彼のプロポーズに関して、後にこのように振り返りました。

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(その後) ハグの日は解体され、気持ちの赴くままに毎日していたものだから、気持ちが離れてしまえば、手すら触れない、何もない

せっかくのプロポーズを台無しにしたこんな小賢しい女、見捨てられて当然なのだ

また、彼らは些細なことですれ違いを起こしてしまいます。ある日、彼女から頼まれていたにも関わらず、夕飯の米を炊くことを忘れていた平匡。それを隠そうとした彼をみくりは激しく問い詰めます。それを彼女はこう振り返りました。 

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余裕がないと、途端に本性が顔を出す。生意気で、偉そうで、小賢しいみくり

平匡さんが愛したのは、家事を完璧にこなす、いつも笑顔で優しい理想の妻で、お米ひとつでひどい態度を取る女じゃない…

私は、自分が嫌いだ。自尊感情が低いのは、私の方だ。

選ばれたくて、認めてほしくて… なのになりたい自分からどんどん遠ざかる 

非常に核心に迫った台詞です。皆さん、第1話での彼女の言葉を覚えていらっしゃるでしょうか? 「何故契約結婚をしたいと言い出したのか?」とみくりに尋ね、彼女が心中を打ち明けた「派遣先でも、私ともう一人どっちかっていう局面で、やっぱり選ばれなくて誰にも認めてもらえなくても、自分は自分として頑張れば良いってわかっちゃいるんですけど」という言葉です。

この物語のテーマは"森山みくりという人間が他者からの承認を得ること"であり、物語のスタートから一貫してこれが追求されてきました。平匡の自尊感情の低さの改善、ムズキュン、トグロターボ……そんなのはハッキリ言ってどうでもいいのです。このドラマを途中まで観ていると、"新垣結衣が弱気な星野源を一人の男にするドラマ"といった見方ができますが、最も重要なテーマは平匡とみくりの恋路ではありません。本当に扱われるべき問題はこの"森山みくりが他者から認められること"なのであり、この最終話で彼女がこの問題にぶち当たり、変化をしない限りで「逃げるは恥だが役に立つ」という作品は終わるに終われないのです。

そして、ついにみくりが平匡に想いの丈をぶつけます。

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やめるなら、今です。

平匡さんだって、面倒ですよね、こんな生活。

私と暮らす前みたいに、外部の家事代行業者に、週に一度頼む程度のお給料ならあるはずです一人なら。

主婦の労働の対価がどうとか小賢しいこと言わないで、平匡さんのプロポーズを素直に喜んでくれる女性は、たくさんいます。

それが普通です。面倒を背負う必要はありません。

"小賢しい"という言葉から読み取れるように、過去に受けた傷を含め、平匡のプロポーズに様々な文句をつけて台無しにしたということで自分を責めています。彼女はその後、電気の灯っていないバスルームの扉を閉め、バスタブの中へ閉じこもってしまいました。

心を閉ざしかけた彼女に対し笑顔を向けたのは、これまで幾度となくみくりに救われてきた平匡でした。このシーンで、これまで定まっていた主体と客体の構図が明確に入れ替わりました。言うなれば、平匡が主体、みくりが客体となり、彼が彼女のことを救おうと手を伸ばしたのです。

みくりさんが閉じたシャッターは、いつか僕が閉じたものと同じかもしれない。だとしたら、僕は開け方を知っている。

何度も何度も呆れるほど、見捨てずにノックしてくれたのは、他の誰でもないみくりさんだ。

こうして、平匡はバスルームの扉に腰掛け、こう語りました。

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生きていくのって、面倒くさいんです。

それは一人でも二人でも同じで、それぞれ別の面倒くささがあって。

どっちにしても面倒くさいんだったら、一緒にいるのも手じゃないでしょうか。

話し合ったり、無理な時は時間をおいたり。だましだましでも、なんとかやっていけないでしょうか。

やってやれないことはないんじゃないでしょうか。

みくりさんは自分のことを普通じゃないと言ったけど、僕からしたら今更です。とっくに知ってました。大したことじゃなりません。世間の常識からすれば、僕たちは最初から普通じゃなかった。今更ですよ。

こうして、平匡の言葉によってみくりは救われるのでした。

そんななか、彼女の友人の"やっさん"こと安恵に頼まれ、みくりが主催した青空市へと場面は映ります。商店街の多くの店が神社で露店を広げ、会場は多くの人で賑わっていました。そんな光景を見ながら、平匡はみくりに青空市を執り仕切った感想を尋ねます。この物語のクライマックスのシーンです。どうなるのでしょうか…

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みくり: 発見はありました。

派遣社員だった時、よく上司にあれこれ提案してたんです。

「こうした方が効率的」とか「何故こうしないんですか」とか。

でも向こうはそんなの求めてなくて、うざがられて切られるっていう

私の小賢しさは、どこに言っても嫌われるんだなって思ってたけど、青空市の仕事ではむしろ喜んでもらえて

小賢しいから、できる仕事もあるのかもしれません。

平匡: 小賢しいってなんですか?

言葉の意味はわかるんです。小賢しいって、相手を下に見ていう言葉でしょ。

僕はみくりさんを下に見たことはないし、小賢しいなんて思ったこと、一度もありません。

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みくり: ありがとう。

平匡: …なんの、ありがとうで?

みくり: ……大好き。

この瞬間、平匡の何気ない言葉で、みくりは長年背負ってきた重荷を下ろすことができました。 「小賢しい」と言われたことをここまでずっと引きずっていた彼女。それは平匡にとっては最早そんな感情すら生まれないと告げられたのです。みくりは平匡を心の拠り所にし、彼女の過去の傷は癒えました。そして何より、みくりは平匡に心を許され、自分が彼から認められた存在なのだと気づきました。彼女は"他者からの承認"を手にしたのです。かつて「社会に必要とされてるんだって感覚が日々の励みになります」と語っていた彼女の姿はもうありません。何故なら彼女の腕の中には津崎平匡という、彼女の価値をその手で"認めてくれる"明確な存在がいるのですから。

平匡の何気ない言葉は、彼女の長年の課題を克服し、彼女を本当の意味で救うものでした。この作品は、平匡がみくりに救われると同時に、それよりももっと大きな意味で、みくりが平匡に救われる物語だったのです。みくりが手にしたものは契約結婚のパートナーの平匡だけではありませんでした。

以上のように、「逃げるは恥だが役に立つ」の物語においては、一貫して森山みくりという一人の人間が救われる姿が描かれていました。第1話が情熱大陸のパロディから始まったのも必然だったと言えるでしょう。冒頭から「このドラマはこういう問題提議から進んでいきます」という宣言のように思えます。しっかりと、この作品で扱われるべき問題を解決へと導いてエンディングを迎えた点で、「逃げるは恥だが役に立つ」は非常に高い評価に値するものでありました。みくりさん、本当におめでとう。

 

あとがき

いかがでしたでしょうか?この物語は一貫して"みくりが平匡により承認される姿"を映し出してきました。もちろん、みくりが平匡に対して幾度にもわたるアプローチを行い、彼が成長しなければこのような結果は訪れませんでした。しかし、最も重要な部分はそこではないのです。大切なのは、冒頭の情熱大陸のパロディから始まった、みくりが他者の承認を得ようとする努力と物語なのです。

それにしても、本当にいい作品でしたね。パロディなどのクオリティもそうですが、私の友人は「よくドラマで感動させようとするシーンって、大抵みんなで徹夜で仕事したりするシーンじゃん。そういうのに対して、しっかりと"やりがいの搾取"なんて言って反対できるみくりって本当にすごいし、"意外に社会派なドラマ"だなって思った。」と語っていました。

私はあくまで心理学の分野からこの物語を考察しましたが、他にもたくさんの考察ができそうです。それこそ、このドラマは大谷亮平さん、石田ゆり子さん、古田新太さんなど名脇役が粒揃いです。彼らの物語について考えてみるのも、また違った楽しさがあるかもしれませんね。この記事が好評だったら、土屋百合について振り返る記事のネタもあるので投稿しようかと思っております。ちなみに、私がこの作品で一番好きなシーンは、最終話で風見が百合との交際に踏めると勝算があると知った上で彼女のもとを訪れた際に、彼女が振り向きざまに言った「だから来たの?」です。めちゃキュートでした。ありがとう、石田ゆり子さん…

最後にはなりますが、制作スタッフの皆様、キャストの皆様。本当に素敵なドラマをありがとうございました。このような形とはなりますが、心よりお礼申しあげます。

*1:現在は公式動画が全て削除されているとのこと

*2:森山みくりの"専業主婦"もここでは職業として考える