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川崎の工場地帯出身のラッパーとHiGH AND LOWと内田彩さんが好きです

自転車を運んだら4ユーロを受け取った話

わりと個人的にセンセーショナルな出来事があったので書きます。

 

御存知の通り現在ベルリンに留学しております。こちらでの留学生活も早9ヶ月目の私なのですが、結構平凡な毎日を過ごしております。朝起きて仲のいいピザ屋のおっさんのところでブランチを済まして、ぼさっと授業に出て夜はケバブとビールを買って帰って寝る、みたいな生活スタイルです。良いですよ、学生最高!そんな私ですが、柄にもなく真剣に「……なんで?」と思ってしまった出来事があったので今日はそのことについてお話しします。

 

今日の夜、いつも通り夜10時頃にケバブを買って家にかえる途中でした。駅の構内を歩いていたところ、後ろから「Hey! Hey!」とでかい声が聞こえ、「お~やってんなぁ~」くらいに思っていたのですが、あまりに繰り返し「Hey Hey」と言っていたので、「おいおいどんなラッパーだよ」と思って振り返ったところ、階段の前で白髪のおっさんがこちらに向かって叫んでいました。あまり背は高くないもののかなり恰幅が良く、オクトーバーフェストでビールをかっ食らってるような白髪のじじいを思い浮かべてもらえればたぶんそのイメージにピタリと当てはまると思います。そうです、「ぶっちゃけこちらから話したくはない系」のおじさんですね。めっちゃこちらを睨んでいます、怖い。私の住んでいる地域はベルリンの中でもかなり安全な西ベルリンなのですが*1、やっぱり外国といえば外国ですのでヤバい薬でも持ってたら怖いな~と思いつつも仕方ないので声の方へと向かいました。

 

おっさんはかなり大きな自転車を、折れた片足を松葉杖で庇うようにしながら立っていました。するといきなり「お前、この自転車上に上げろ。」と言われました。めっちゃ睨んでます、怖い。さて、まぁさすがに9ヶ月もドイツで生活をしていれば、ある程度言ってることや言葉の使い方はわかります。明らかに命令口調です。ドイツ語を少しかじっている方向けに言うと”Biite”も使ってませんし、”Tragen Sie…”とかでもありません。初対面で「自転車上に上げろや」です。日本であればまず「すいません、怪我してるので自転車上に上げてもらえませんか?」から始まるのでしょう。もしいきなり命令口調で話されたら一悶着起きるのを避けては通れないでしょう。後述しますが、私がガキに見えても仕方ないのでここは素直に引き受けることにしました。

 

ちなみにここまでの描写で日本とは異なる点が3つあります。1点目は「自転車」です。「駅に自転車?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。ドイツを含め、ヨーロッパでは自転車を鉄道、地下鉄に乗せて移動することができます。電車に乗ったら普通に自転車を乗せている親子連れ、バイク便なんかが居ます。あとは犬なんかも盲導犬問わずオーケーですね。そこらへんはわりとフリーダムです。日本の満員電車なんかだったらクレームものでしょう。満員電車なんか滅多に遭遇しないドイツだからこそ成せる技です。

2点目に「階段」です。ドイツは基本的に大きな駅でない限りエスカレーターがありません。主要な駅に行けばあるのですが、西ベルリンの外れの駅であれば特に設置はされていなくても驚くことはありません。代わりに、多くの駅でエレベーターは設置されています、基本的には。今回もおっさんの横にエレベーターがあったので、「これ使えないんですか?」と尋ねましたが、「それは壊れてる。早く運べ。」とのご要望を承りました。迅速かつ丁寧に、早めに運んで早く帰りましょう。その一心で自転車をこの後上まで運んだのでした。

そして3点目に「駅員」の存在です。日本であれば基本的にどの駅でも駅員がいるでしょう。改札の前、ホーム、少なくとも2人はいるはずです。車椅子の方がいれば電車に乗るまできっちり付き添いをしてくれるはずです。ですが、ベルリンの駅に駅員はいません。こちらの駅にはトイレもなければ改札もないからです。こちらの電車は「全員が切符を買っているであろうと信用して電車を運行しています」という信用性を取っているので、日本のように切符を入れるところにSUICAを入れちゃったみたいなバカな真似が起こらないため、特に駅員を配置していなくとも問題ないのです。また、ホーム上もほぼ全くと言っていいほど混み合わないため、こちらも同様に駅員を配置したところで意味がないのです。

 

そんなわけで渋々ながらも自転車を上に運ぶことにしました。運んでいる間は自身の足が心配なのか静かなおっさん。留学して早9ヶ月。「私がドイツで生活して居なかったらこのおっさんの自転車は誰が運んだんだろうか」とバカなことを考えているうちに自転車を上に運び終わりました。自転車を停めてそそくさと帰ろうとしたところ、「待て」との一言。勝手だなぁ~と思って振り向くと、おっさんがこちらに2ユーロ硬貨を2枚向けてきました。お礼のつもりなのでしょうか、ですが相変わらず顔つきは怖いです。するとおっさんの口から”Danke.”との言葉が発せられました。日本語で「ありがとう。」もちろん言い方が言い方なのでひらがなの「ありがとう」というよりは、ドイツ語の硬い響きで「ダンケ」と書いた方が適当なのでしょうか。おっさんはこちらに4ユーロを向けてきました。日本でも良くご高齢の方々に何かをすると「これ取っときなさい」と1000円札を手の中に納められたりしますが、あんなのは極めて稀です。そしてそんな稀なケースに遭遇したとしても、大体の場合に日本人は「いえいえ」といって丁寧に断ります。私は今回、この目の前のドイツ人に対して「大丈夫です。」と断りました。しかし未だに、ゴツゴツした手の中の2ユーロ硬貨が私の方を向いています。私はそれを受け取ることにしました。理由は「この国での正解がわからなかったから」です。おっさんは2回ほど相変わらずの怖い顔つきで「ダンケ、ダンケ」と静かに言って電車の方へと消えてゆきました。

 

私は未だに何故彼がお金を渡してきたのか理解ができません。ですが、考えられる理由がいくつかあったのでここに綴ります。ひとつめは、この国には「チップ」という文化が存在していることです。日本にはチップの文化はありません。レストランなどでも飲食代の中にサービス料や人件費が含まれていて、チップを渡そうとすれば時にそれを受け取ったものが怒られるくらいです。ドイツでも同様に飲食代にサービス料が込められていますが、それでもチップを渡す時があります。「感謝」と呼ぶのが適当でしょうか、サービス料以外でも彼らの奉仕に対して少しばかりのチップを渡します。このような文化的な違いから、私は4ユーロを渡されたのでしょうか。日本で自転車を上にあげるたった20秒ほどでお金を渡されることはないでしょう。あくまでもその行動は「ボランティア」とも呼べないレベルの「当たり前」と呼ばれる人助けであり、「ありがとうございます。」と言えばその日の夜には忘れているくらいの話です。

ふたつめに、私が若いアジア人だからということです。自分で言っておいてなんですが、この国で私は「若い」です。ヨーロッパ人はすくすく成長します。おそらく街を歩いて、「あれはたぶん同い年くらいだろうな~」と思ったりすると、大抵それは見当違いです。実際に年を聞いてみればわかりますが、日本で言うところの中学生、14歳くらいと言われることがあります。*2彼らからみればアジア人の20代なんて「ガキ」も同然です。子供に見られたのでしょうか。おまけにアジア人の男が夕飯にケバブを片手に持っているのです。「きっと自炊もしないでケバブなんかにがっつくのだろう」そう思って夕食代を出してくれたのかもしれません。ベルリンには数多くのケバブ屋がありますが、その値段は大体3.5ユーロと相場が決まっています。ケバブ代と考えれば4ユーロでぴったりくらいなので、そう考えると納得がいくでしょう。

最後に、本当にこの国では「感謝を金で表す」のかもしれないという可能性です。はっきり言ってこれは「無い」と思います。チップという次元以前に、「ボランティアには金を支払う」みたいな精神が根付いているという可能性ですが、まぁおそらくこれはないでしょう断言はできませんが。

 

とにかく、先ほどのおっさんに何らかの形で私は「感謝の気持ち」を受け取ることとなりました、あくまでも心の中で蔑まれてなければの話ですが。未だに彼の心のなかが読めません。顔は怖いし言葉の使い方も荒いのにお金を渡してきた。「やった、夕食代浮いた!」と考えればそれだけで済むのですが、それ以前にドイツ人の感謝の表し方で悩むとは思ってもいませんでした。前述した階段が主流といった環境の違い、言葉の聞こえ方の違い、表情が読めないということ。様々な要因があると思います。ですが、この国には他の人にとっては簡単なことでも。私にとって未だにわからないことが数多く存在します。感謝の示し方もそうですが、何よりもまず、留学して9ヶ月も経つのに、「感謝の表し方」を含め、「未だにそんな次元のことがわからない時点でダメなんじゃね?」ということに気づいて今度は精神的にヘコむ夜を迎えたのでした。寒い季節ですが、まずはもうちょっと外に出ることから始めようと思います。

 

未だにジャケットの中に入っている件の2ユーロ硬貨2枚が、彼のどんな気持ちを指し示しているものなのかよくわかりません。何か分かる人、よかったら教えてください。

*1:ベルリンの壁があった影響で、未だに共産主義であった東側はそこそこ治安が悪い。

*2:よくピザ屋でこういう話になる。大抵上だと思っている奴らが15歳くらいのことがほとんど。