なんだかんだベルリンが好きーー香山哲『ベルリンうわの空』を読んで

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 香山哲さんのコミック『ベルリンうわの空』を読んだ。自分もベルリンに住んでいた経験があるので、共感するシーンの多かった印象がある。ベルリンにいると、何もしたくなくなる。東京にいても何もしたくないのは一緒だけど、“生活”という言葉が東京とベルリンではまた違った響きになる。それは自分が当時、学生という立場を使って労働をせずにほっつき歩いていたからかもしれないけれど…。

 ちなみに、自分は現地でベルリンの歴史を学んでいた。毎日のようにケバブとピザを食べて、スーパーでは飲料水とハイネケンを買い込む毎日だった。アパートの水道からはたまに泥水が出てきたり、色々なビールを試すなかで、最終的にハイネケンの瓶が一番美味しいと気付いたからである(ちなみに日本で買うと250円くらいする、高い…)。

 帰国後に課せられた卒業論文では、ベルリンに住まうトルコ系移民労働者たちと、現地のギャングカルチャーの形成や治安問題、さらには薬物売買に関する現状の関係性を考察した。曲がりなりにも1年間はベルリンの歴史を(一応ドイツ語で)学んだわけだし、1989年と聞けば「=ベルリンの壁崩壊」と即答できる。卒業論文も教授には結構ウケた。そこそこベルリンの歴史に詳しいと思う。

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 だからこそ、あのコミックで描かれていたベルリンと、自分の体験してきたベルリンには、ちょっとした違いも感じた。前者はアーティスティックな生き方だった。後者は冬の季節に街を覆う雲と一緒で、なんとなく空虚な印象だけが残っている。

 初めての海外で言葉もままならないまま夜の空港に降ろされ、タクシーで自宅まで到着した際に謎に大量のチップを運転手に渡したり、アパートの鍵が開かずに野宿を決意したり...(その後うるさくしてたら他の住人が助けてくれた)。美談にできるようなエピソードもないし、「そんな多様性もベルリンらしさだよね!」というオチに結びつけるわけではないが、なんというか、あの作品を読んで、自分のベルリンでの体験が年を増すごとに大切な時間になってきていることに気付いた。当時は1日でも早く、いま座っている自宅のソファーに寝転げたかったわけだが...。

 「21歳で留学は早かった」が、1年間の生活を通しての所感なのだが、ぶっちゃけ今から留学行ってもあまり変わらないと思う。内弁慶なのも、結局は日本のエンタメが好きなのも、どこに行ってもパソコンをいじっているのも、あんまり変わらない。ただ、今なら日本の会社で働きたくないからという理由で、また違った方法でベルリンの街の雰囲気に身を預けていたのかもしれない。当時の自分なら挽回できた。

 というのが、自分なりのベルリン。『ベルリンうわの空』は、ベルリンに触れる入門書的として、非常に興味を惹いてくれる作品だった。そして、すでにベルリンを知っている人にとっては、その内容から現地での時間に思いを馳せると同時に、“それぞれのベルリン”に繋がるレールを引いてくれる(結局言ってしまった...)。ぜひ一度、読んでいただきたい。